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【2025年06月25日19:47 】 |
【魂】

時は、西暦2201年。
それは、とある場所でとある男がその生涯を終わらせた。
とある場所とは、ネルガルが所持する表には公表していない裏のドックであり
とある男。その男の名前はテンカワアキト。
テンカワアキトは、若くしてその生涯を終わらせた。
いや、終わらされたと言った方が良いのだろう。
何はともあれ、テンカワアキトと言う男は物言わぬ冷たい肉の塊になったのである。

ただ、その後のテンカワアキトと言う存在だった肉の塊を見た者は居ない。
テンカワアキトの親友でありネルガル重工の会長であった男も
テンカワアキトと共に戦火に身を焦がした桃色の少女も
テンカワアキトに恋愛感情を抱いていた会長の秘書の女性も
テンカワアキトの五感を取り戻そうと研究していた金髪の女性も
テンカワアキトが駆る黒百合の棺をメンテナンスしていた男も

テンカワアキトと言う存在が死に、人間の形をしていた肉の塊を直接見た者は居なかった。
上記の五人が見たのは、監視カメラの映像。
テンカワアキトと共に戦火に身を焦がした少女には、ブツリと大切なモノが切れる感覚。
慌てたようにテンカワアキトが倒れていた場所に赴けば其処は何も無い場所。
ガランとした部屋のみだった。

テンカワアキトと共に戦火に身を焦がした少女は、声が届かない声が聞こえないと泣き叫んだ。
テンカワアキトの親友たる男は、唖然とした後苛立ちを顔に出し頭を乱暴に掻いた。
テンカワアキトに恋愛感情を抱いていた秘書の女性は、泣き叫ぶ少女を抱きしめ静かにナく。
テンカワアキトの駆る黒百合の棺をメンテナンスしていた男は唖然とした後、スパナを床にたたきつけた。
テンカワアキトの五感を取り戻そうとしていた女性は、その場所を食い入る様に見た後
テンカワアキトの遺体が消えるまでの経緯を、改めてみた。
そしてその女性は告げた。

「皆聴きなさい。ココには彼の体は無い」

その女性の言葉に、他の四名は何を言っているのかと唖然と女性を見る。
ソンなのは当たり前だ。監視カメラの映像で見た彼の体がココには無いのだから。

「博士である私が、言う言葉ではないけど。
彼という『存在』は、この場所ではない『どこか別の場所』に跳んだわ」

跳ぶ。その言葉が指す事柄。
彼女の言葉を聴いていた四人には、思い当りがあった。
それはポゾンジャンプと呼ばれる現象。

「さらに言うなれば……ランダムジャンプ。
もしかしたら彼は『この世界』の何処かに居るかもしれない。
もしかしたら彼は『別の世界』の何処かに居るかもしれない。
もしかしたら彼は『未来』の何処かに居るかもしれない。
もしかしたら彼は『過去』の何処かに居るかもしれない。
だから、彼と言う存在は『亡くなってない』ただ何処に行ったのかわからないだけ」

その何処かは特定できないだろう。と最後に博士の女性は言う。
だが、と博士の女性は言う。私は出来ないからと言ってあきらめる性分ではないと胸を張っていった。
かくして、テンカワアキトの『存在』はこの場から消え。
博士の女性は、その『存在』が何処へ行ったのかを探し出す事に時間を費やすこととなった。

月日が流れるのは早いものである。
一年二年三年。馬が駆けるが如くにすぎていく。
何時しか、テンカワアキトと共に身を焦がした少女は女性となり博士の女性を手助けしていた。
年月は流れる。流星が如く。


「……アキト……」


桃色髪の老婆が、その言葉を最後になくなった。
テンカワアキトと言う存在が何処へ行ったのか。
それはとうとう分かる事無く幕を閉じたのだった。

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【2007年01月24日22:52 】 | 機動戦艦ナデシコSS | コメント(0) | トラックバック()
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