ノイズが走る。
ココは何処だろうか?
見覚えのある金属がむき出しの壁。
視線を移せば其処には、エステバリス。
しかも古い旧式。
ノイズが走る。
「おい! あんた! そんな所に呆けてるんじゃない!」
声が聞こえる。
ノイズが走る。
「今木星トカゲの野郎に襲撃喰らってんだぞ!?
コックの野郎が、なんかしらんが迎撃にむかったが」
木星トカゲ?
コックの野郎?
旧式エステバリス?
「おい! きいて」
俺は、まだ動いていないエステバリスに歩み寄りエステバリスの脚部の一部に手を触れた。
「なっ!? おい!? さっきの黒尽くめの野郎何処行った!?」
「知りませんよ! それより班長! 詰め込む荷物はコレで全部ですか?!」
「0G戦フレームがまだ積み込まれてねぇ!」
「んな! エステバリスの換えパーツならまだしもフレーム積み込みなんて間に合いませんよ!?」
「くそったれ!」
あぁ……
ココは何処だろうか?
夢なのだろうか?
最後の記憶は何処で止まってる?
あぁ、確か俺が倒れラピスの声が聞こえなくなってからか……
ラピス? ラピス……何処に居る?
「班長!! エステバリスが!」
「なっ!? 動いてやがる!? おい! ダレだ!」
外へ……そう外へ行かないと……
木星トカゲに襲撃されているのなら狩らなければ……
敵、怨敵、俺から総てを奪ったヤツラ。
ユリカを弄んだヤツラ。
人を人と思わない外道……
「班長!? エステバリスの中に生体反応ないです!!」
「なにぃいいい!? ンな訳あるかぁ!!! なんでそれじゃぁエステが動いてンだよ!!」
「知らないですよぉお!!!」
あぁなんだろうか? 下で騒いでる。
アレは……ウリバタケ?
ココは………ココは………
ノイズが。
ノイズが晴れる。
総てが認識でき、総てが分かる。
今、自分はどう言った状態なのか
ココが、何処で何時なのか……
ND-001 通称ナデシコ。
「エステが震えてる?」
「叫んでんのか?」
外へ上がる昇降機へ乗り外へと向かう。
ふと、何者かが俺に話しかける。
【君はダレ?】
【俺は……そうだな……ラスティ・ネールだ。お前はダレだ?】
【僕は、オモイカネ……君は何をするつもり?】
【今の状況打破をしようと思ってる】
【そう……がんばって】
あぁ、がんばるよ。と俺はオモイカネに言う。
はて……この時のオモイカネはココまでの反応を返したかな?
まぁいい……そろそろ外だ。
「何だって言うんだよ!! くそぉーー!!」
木星トカゲの無人兵器通称バッタの攻撃を四苦八苦しながら回避し時々射ち落としているエステバリス。
そのエステバリスに乗っているのは、ただの平凡な青年。
火星育ちでいつの間にか地球に来ていたと言う不可思議な青年。
その青年の名前はテンカワアキト。
テンカワアキトは、悲鳴に近い叫びを上げながらエステバリスを操っていた。
あれは、俺。俺であって俺じゃない俺。
始祖たる俺。今の俺は可能性。
ならば……可能性たる俺が見てきた未来を起こさせない為に
俺は、俺を助け俺の道を行かせぬ様にしよう。
【其処のヤツ。下がれ】
「な、なんだ?!」
どうやら、いきなり話しかけられ困惑したようだ。
それでは、この先生き残れないぞ? 俺よ。
いや……可能性の俺みたいにさせなければいい話か。
【兎に角下がれ。死ぬぞ?】
「わ、わかったよ!」
アキトのエステバリスと擦違う様に俺のエステバリスがアキトを追いかけてきていたバッタを叩き潰した。
どうやら、自分の体の様に動くらしい。
おかしな話だが、エステバリス越しに五感を感じる。
と、言っても嗅覚と味覚に関しては不明だが……
【海まで走れ。コイツラは俺が受け持つ】
「なっ!? アンタ一人で大丈夫なのかよ!」
心配性だな俺よ。
いや、確かこの時の俺は、エステバリスによってバッタが簡単に壊せた事により
高ぶっていてさらに驕っていたな……
【大丈夫だ。だから海まで走れ】
「わ、わかった!」
海へと向かうアキトのエステバリスを一瞥した後、
俺は、俺を敵として認識したバッタどもを笑いかけた。
まぁバッタには見えないだろうが……
さぁて……来い。くそ蟲。
「なに? あれ?」
ナデシコのデッキにて、誰かがそう呟いた。
デッキに移っているのは一体のカラーリングも施していない無機質なエステバリス。
そのエステバリスが、ナデシコが停泊しているサセボを襲っているバッタを
文字通り叩き潰しているのだ。
その動きは、繊細かつ大胆。
「ル、ルリちゃん。あのエステバリスのパイロットと連絡は取れないの?」
ナデシコの艦長であるミスマルユリカが、オペレーターのホシノルリにそう声かける。
ユリカの要望にルリは、渋い表情と言ってもまったく分からないが。
兎に角ルリは渋い表情を浮かべてユリカに告げる。
「ダメです。ロックされてるのかわかりませんが……反応が返ってきません」
「そっか……」
ルリの言葉に、小さく頷いた後ユリカは顎に手を添えて何かを考える仕草になる。
現在、ナデシコはドッグから海中へと続くゲートを潜り抜けている最中である。
早くて五分後には、海中から海上へと出る事が出来るが……
「一応、グラビティーブラストチャージをお願いねルリちゃん」
「了解」
その間も、あのエステバリスはバッタを屠っている。
バッタから撃ち放たれたミサイルもまるで【人間的】に回避しバッタを撃破する。
違和感。
そう、この画像を見ている総てが違和感を感じていた。
何かがおかしいと。
何かが変だと。
何かがそう訴えている。
だが、その何かがが分からなかった。
ホシノルリは、なんとなく小さくため息をついた。
結果的に言えば、ナデシコに損害も無く。
サセボ。特にナデシコが停泊していた辺りは建物の被害が甚大だったが
何故? と、首を傾げるほどに死者の数はゼロ。
ただし、重傷者や軽い怪我を負った者の数は多かった。
死者数ゼロという結果を見れば、それはとても良い事と思えるが……
その日、サセボの病院という病院は重傷者で満杯になったとか。
ナデシコの格納庫に、ピンク色のエステバリスとノーカラーのエステバリス存在した。
ピンク色のエステバリスからは、テンカワアキトが出てきて整備員から
よくやった! だのお疲れさん。だのとテンカワアキトを叩きながら声をかけられた。
そして、最後には、このナデシコのクルーをスカウトしてきたプロスペクターと言う
眼鏡に紅いベストを着た男が、笑顔を浮かべてやってくる。
ソレに対して、ノーカラーのエステバリスからはダレも降りてこなかった。
その事に対し、整備員達は不振に思った。
対して、このエステバリスに助けられたアキトとしてはお礼を言いたかった。
ちなみに、プロスペクターにあたってはこのエステバリスを操縦した存在をスカウトする為にココに来た。
しかし、一向にノーカラーのエステバリスからエステバリスを操縦したパイロットが降りてこない。
何か不備でも起こったのだろうか? と、整備員達はざわめき
「お前ら! コクピットあけるぞ!」
整備員達を纏める存在であるウリバタケセイヤが、そう言うや否や整備員達は慌しく動き始めた。
そしてすぐさま外からコクピットが開けられる。
しかし、コクピットの中には誰も居なかった。
んな馬鹿な……とウリバタケは、あんぐりと口を開けて呆けた。
あの時このエステバリスは動いていた。
なのにパイロットが居ないのは何故だ?
【お前ら。何をしてるんだ?】
不意に何処か掠れているが、はっきりとした声が格納庫に居た全員の耳に響く。
【俺を探しているのか? 俺はココに居るぞ?】
と、その声に言われ周囲をキョロキョロと見渡し始めるウリバタケ達。
その存在は、ピンク色のエステバリスを操縦していたコックテンカワアキトの横に居た。
その存在の容姿は、黒尽くめでその体全体がゆらゆらと揺れていた。
「うわっ!?」
アキトは、いつの間にか隣に居たその存在に驚き飛びのいた。
「これはこれは、えっと貴方がこのエステバリスを操縦していた方でしょうか?」
と、プロスペクターが平常心を崩さずノーカラーのエステバリスを一度指差した後尋ねた。
【操縦? まぁ操縦はしていたな……】
「そうですか! で、私としてはですね。貴方をパイロットとして雇いたいのですが」
【構わん。無償で雇われよう】
その存在の言葉に、へ? とプロスペクターは変な表情を浮かべる。
【何……幽霊に、金も食い物もいらんと言う事だ】
「は、はぁ?」
疑っているな? と、苦笑を浮かべてラスティはプロスペクターに向かって拳を繰り出す。
瞬時にその拳をガードするプロスペクターだったが……
繰り出された拳は、ガードをすり抜けさらには、プロスペクターの背中まで突き出た。
【分かってもらえたか?】
「そ、それは存分に……」
【俺は……ラスティ・ネール。訳あって幽霊と言う存在だヨロシク】
なお、その言葉の後。
格納庫は騒然と混沌に包まれた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
「清めの塩! 清めの塩!!」
「線香だ! 線香もって来い!!」
と、言った状況になったのだった。
かくして、未来においてのテンカワアキトの可能性である彼は
この時代においてラスティ・ネールと名乗り、世界初の文字通り幽霊パイロットとなったのだった。 PR |