そこに一匹の実装石が居た。
その実装石は、すでに成体である。
別に何をする訳でもなく、その実装石は其処に居た。
其処とは公園である。
その実装石は、ほかの実装石たちが人間が与えた何かに群がる様を見て
酷く酷く酷く嫌悪をその実装石たちに向けた。
普通の実装石ならありえない事をこの実装石はしているのである。
その実装石は、賢かった。
ほかの実装石より賢かった。
人間の言葉を理解できるぐらいに賢かった。
その実装石は、突然変異種であり姿かたちは変わらないが
その知能・知性は人間に近い物だった。
まぁ、その代償といわんばかりにその実装石には欠点が二つあった。
右目が無い事=自分の子を産む機能が完全に死んでいること。
左腕が生まれつき無い事。
仔実装の時、親実装に捨てられたがこの人間に近い知能と知性のおかげで
成体になるまで生き延びてこられたこの実装石は、稀少な実装石であった。
この実装石(めんどくさいので以下「装」)は、人間が与えた何かに群がる実装石たちを見て
この後の結末を考え、実装石らしくないため息をついた。
装はあの人間を知っている覚えている。
虐待派と呼ばれる人間で、実装石の好物である金平糖に似た実装石コロリなどを与えては
それによってもだえ苦しむ実装石の表情を見て楽しんでいた。
だから、見ていた。私はあぁはならないと。人間には近づかないと
改めて装は心に刻むのだ。この見るという行為はその為の儀式でもあった。
装は、苦しみのたうちまわる実装石たちを一度見た後その場を後にした。
もう一度言おう、装はきわめて知能・知性の高い稀少な実装石である。
それは住処にも現れていた。
ほかの実装石が公園内部に住処を作るのに対し装は、公園から離れた場所。
極めて人間居らずまた人間が滅多に通らない所に住処を設けていた。
その住処は、周囲の風景に溶け込むかの様にカモフラージュされており
人間ですら、パッと見て分からないほどのカモフラージュである。
もし、実装石を研究している人間がいたなら驚愕する事間違いないだろう。
何せ、装はこれを誰に教えられた事も無いのに作り出したのだから。
装は、自分の住処の入り口の前に行く前に周囲を数十秒見渡す。
危険やほかの実装石やマラ実装が居ない事を確認した後やっと住処の中に入った。
住処の中は、実に簡素なモノで……と、言っても実装石である装に人間の家みたいなモノを求めるのもアレだが……
住処の中には、拾ってきたであろう人形のテーブルとペットボトルのキャップ。
そして、公園にある森から拾ってきた木の実の山(比較的長期保存に向いている物)だった。
「デスゥ(そろそろ備蓄が少なくなってきたです)」
装は、木の実の山を見てそう呟いた。
思い立ったが吉日とはよく言った物で、装は木の実を一つ口の中に入れた後、住処を後にした。
目指すのは、公園でも余り実装石や人間が近づかない場所。
殆どの実装石が、公園の開けた場所付近に住処を設け人間達に媚を売ったり餌をよこせとすぐに叫べる場所に
住処を設けているのだ。
無論総ての実装石が……と、言う訳ではないが。
まぁそれは置いておいて、装はその実装石も人間もあまり近づかない場所へと足を運んだ。
これまた拾ってきた一番小さなコンビニ袋を手に。
その場所は、自然が溢れている場所であり木の実や食べても大丈夫なきのこが良く生えている場所だった。
さて、木の実を探そう。日持ちするドングリなんか良いが……今の時期落ちているかな? などと思いつつ
装は、木の実を探し始めた。
片手しかない装にとって木の実を拾う事は実に時間のかかる行為だった。
木の実を拾って、いちいちコンビニ袋の口を開けソコに入れる。そしてそのコンビニ袋をまた手に持って歩く。
この工程だけでも、時間がかかる。
しかし、時間がどれだけかかろうが、食い扶持を確保する事は重要だった。
三時間ばかりの時間が経過しただろうか?
装のもつコンビニ袋は、三部の一程度が膨らんでいた。
コレだけあれば、馬鹿みたいに食べなければ二週間は持つな。と、装は思い帰路につこうとした。
ふと、何かの声が聞こえる。
人間の声では無い。
どちらかといえば同族。
実装系列の声だ。
こう言うのは無視して、さっさと住処に帰るのが一番なのだが……
気まぐれ。と、言えばいいだろうか?
装は、その声のする方まで歩を進める事にした。
次第に声がはっきりと聞こえてくる。
よくよくその声を聞き取れば「ボクゥ」と言う実装ではあるが実装石とは違う。
俗に実装蒼と呼ばれている、実装石の天敵たる存在の声。
さて、装としてはココまで来てしまったものの、実装蒼の声を聞いてしまい帰りたくなって来た。
実装石といしての本能が、近づくな! 逃げろ! と訴えてくる。
頭痛染みた感覚が、装の頭を支配するが……
どうも、聞こえてくる実装蒼の声が、声の色が、声に含まれている「ナニカ」が気になった。
で、結局の所、装は歩みをやめなかったのである。
そこにいたのは、実装蒼の子ども。
小さい鋏を持って泣いていた。
多分、親に捨てられたのだろう……
実装蒼は、マラ実装蒼と実装蒼から生まれる場合と
実装石から生まれる場合がある。
その実装石から生まれるというメカニズムは不明。
一説には、過去に実装蒼と出会い根強い恐怖を覚え実装蒼と言う存在を強く記憶に残している実装石が
子どもを産むと、実装蒼が生まれる事があるといわれているが……やはり不明。
まぁ何はともあれ、今、装の前で泣いている子実装蒼は、実装石から生まれ捨てられたのだろう。
天敵とは言え、装は不憫に思った。
「デスゥ(其処の泣いてるの)」
「ボクゥ?(な、なに? だれ?)」
「デスゥ(よけりゃぁ、私と共に行くですか?)」
「ボ、ボクゥ?(ほ、本当?)」
「デスゥデ、デスゥ(まぁ、私の言う事を聞く事等色々条件つくですが)」
まぁ泣いてて腹でも減っただろう? と、装は今しがた拾ってきた木の実を子実装蒼に手渡す。
「ボクゥ……(あ、ありがとう……)」
「デスゥ(で、どうするです?)」
「ボクゥ! ボクゥウ!(おねがいします! ちゃんと言う事聞きます!)」
「デスゥ(じゃぁマズ一つ言うです)」
子実装蒼(もうメンドイから子蒼)の威勢の良い返事に、少し退き気味になりつつも装は言う。
装の言葉に、きょとんと首をかしげる子蒼。
「デスゥデス(お前を捨てたヤツを恨むなです)」
「………ボクゥ(………わかりました)」
「デスゥデス。デスゥ(まぁなんでお前が捨てられたのか後で教えてやるです。他の事も)」
そういい終わった後、装はクルリと踵を返し住処へと向かって歩いていく。
少し進んだところで、首だけを子蒼の方に向けて何をしているのか? という表情をする。
「デスゥ(ほら、行くですよ)」
「ボ、ボクゥ!(は、はい!)」
こうして、実装石と実装蒼という天敵関係である二匹が出会った。
住処に着き、実装石は、子蒼に色々な事を教えた。
木の実の取り方、食べれる茸の種類。人間の種類。
緊急時の餌の取り方。人間に拾われた時の事。
そして、無闇に実装石を狩らないと言う事を教える。
正確には、飼われている実装石や子蒼に危害を加えない実装石は……と、なるが……
子蒼は、それら総てを覚えながら装との生活を始めのだった。
「へぇ……奇特な実装石もいたもんだね?」
「そうですね。母親に捨てられたボクを拾って育ててくれた彼女は、色々教えてくれましたよ」
「ふぅ~ん」
「人間に対して悪態をつく実装石は狩っても良いとか、実装紅や実装銀の実装石以外のシリーズには手を出さない事とか」
「へぇ、その実装石自分以外のシリーズ知ってるんだ」
「はい、彼女が言うには、実装薔薇と出会った事もあったって」
「うそっ! 実装薔薇って確認がまったくされてないシリーズだよ?!」
「で、彼女は実装薔薇に殺されそうになったって言ってました」
「そ、そりゃぁ……実装薔薇は、実装蒼と同じぐらいに実装石を狩るのが趣味と言って過言でないらしいからね」
「でも、彼女は、その時持っていた本物のコンペイトウとか差し出して助かったって」
「それ、本当に実装石?」
「さぁ? でも、確かに彼女は実装石でした。ただ、人間と同じぐらいの知識と知性を持っていました」
「超実装?」
「いえ。彼女に特殊な能力は一切ありませんでしたね……」
「そっか。いまその彼女はどうしてるんだい?」
「わかりません。ボクがマスターに拾われた時、遠くからボクを見ていたのは知ってますが……」
「そっかぁ……一度会って見たいもんだ」
「ダメです。あわせませんよ? マスター」
「ちぇっ……」
「マスター。虐待派ですから……他の実装石を狩るならちゃんとやります」
「わかった。わかったよ」
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